設計課題

【建築学生向け】卒業設計や建築設計課題をクリアするための,効率的なアプローチとスケジュール管理

建築学生にとって卒業設計や設計課題は、学校生活の総仕上げであり、自らの成長を示す重要なプロジェクトです。しかし、複雑な要件、厳しい納期、そして多岐にわたるリサーチや実作業が求められるため、効率的に進めることが困難と感じることも多いでしょう。本記事では、設計課題に取り組むにあたっての初期調査から、アイデアの具体化、スケジュール管理、資料整理、フィードバックの活用まで、プロジェクトを成功に導くための実践的なアプローチを解説します。

目次

建築設計課題の進め方:初期段階の調査と計画

初期段階の調査と計画は、設計プロジェクトの成功を左右する重要なステップです。この段階では、計画の方向性やコンセプトを固めると同時にプロジェクトに必要な情報を収集し、効率よくリサーチを進める必要があります。

1. テーマと目標の明確化

設計課題のテーマを解釈し、そのテーマがどのような意図や目的を持つのかを理解します。テーマに基づいた設計の方向性を定義し、目指すべきゴールを設定することが、以降の設計プロセスをスムーズに進めるための基盤となります。卒業設計では自らテーマを設定しなくてはなりません。よく学生が陥りがちなのは、テーマに縛られすぎて設計が追い付いていないことです。壮大なテーマである必要性は必ずしもあるわけではないのです。身近な問題や、構造の詳細な部分が設計のテーマになることもあります。まず、以下の質問を自問してみましょう:

  • テーマが求める要素は何か?
  • このテーマを実現するために考慮するべき社会的、文化的な背景は?
  • 自分の作品にどのようなメッセージや機能性を持たせたいか?
  • なぜそのテーマを選んだのかではなく、どうやってそのテーマを実現させるのか?

2. リサーチと情報収集

テーマが定まったら、リサーチに着手します。建築物や設計手法に関する情報だけでなく、地域の文化や歴史、周辺環境についても深く調査することが求められます。リサーチを効率的に行うためには、以下のリソースを活用しましょう:

  • 建築情報サイトで類似のプロジェクトを確認。
  • 学術論文や建築書籍を使って、デザインの背景や理論を学ぶ。
  • 現地調査(可能であれば)やオンラインの地理情報サービス(Google Earthなど)を利用して、立地条件や周辺環境を把握する。

3. 参考プロジェクトの分析

類似のプロジェクトを分析することで、自分の設計にどのような要素を取り入れるべきか、また、どのような違いを出すかを考える参考になります。以下の観点から参考プロジェクトを比較し分析します。

  • デザインの特徴やテーマ:参考プロジェクトがどのようなデザインの方向性を持っているかを確認。
  • 設計手法:空間構成や建築技法、素材の使い方など、どのような手法が採用されているかを調べます。
  • 利用者の動線や機能性:人々がどのように建物内を移動し、利用しているかを観察し、自身のデザインに活かす。

4. 初期スケッチと構想の作成

初期段階の調査に基づいて、アイデアをスケッチし、全体的なコンセプトを視覚化します。この段階では、複数のアイデアを出してみることで、設計の方向性が明確になります。大まかな空間構成やボリューム感、主要な素材や色のイメージを簡単なスケッチで表現します。ここではまだ細かく描く必要はありません。全体のボリューム感や形状、敷地に対しての配置計画等を考慮してください。

設計のアイデアを具体化するためのワークフロー

リサーチを元に設計アイデアを具体化するには、明確なワークフローを確立し、ステップごとに進捗を確認しながら進めていくことが重要です。より多くのリサーチが存在するとアイディアの引き出しになります。しかし、気を付けなければならないのは、参考事例に引っ張られすぎないことです。あくまで自分のオリジナルを考えてください。

1. コンセプトのブラッシュアップ

初期スケッチから得たアイデアを元に、コンセプトをさらに発展させていきます。コンセプトが曖昧なままだと、設計が進むにつれてブレが生じる可能性があるため、明確なビジョンをもって設計を進めることが肝心です。コンセプトに基づいたキーワードをリストアップし、設計全体に一貫性を持たせます。敷地のエントランスや、メインの構造部分、建物の特徴を書き上げてみましょう。

2. 空間構成と動線計画

建築物の用途や利用者の動きに基づき、動線計画を立てます。ここでは、実際の建物内での利用シナリオを想定し、人々が自然に移動できる配置を検討します。たとえば、公共施設であれば、エントランスからメインホール、さらに会議室やトイレなどの動線がスムーズに繋がるかを考慮します。その施設にどのような空間が必要なのかは事前のリサーチでよく調査してください。ここでも、実際の施設に疑問を持つことは大切です。本当にその空間が必要なのか?壁で仕切られてないといけないのか?疑いながら空間構成を考えてみてください。

3. 3DモデリングとCAD図面の作成

手書きのスケッチから、実際の3DモデリングやCADソフトを使って設計を進めます。設計のスケール感や各部の寸法、空間の感覚を掴むために3Dモデルを作成し、具体的な形状や配置を確認していきます。ここでは、国土地理院などを使用し実際の敷地図を用いて考察することが望ましいです。ボリューム感や周りとの兼ね合いをじっくりと考えてみましょう。初期段階ではただの四角や丸で空間を落とし込んでいくのも良いのかもしれません。少しずつ肉付けをしていくのが望ましいです。

4. 素材や色彩の選定

建物の雰囲気や機能に合わせて、使用する素材や色彩を検討します。自然素材を使うことで温かみのある空間を作るのか、ガラスや金属を使ってモダンな雰囲気を出すのか、テーマに合わせて素材や色彩の選定を行います。施工時のコストやメンテナンスの手間も考慮し、現実的な選択をすることが大切です。また、使用してみたい材料からもアイディアやコンセプトが生まれることもあります。素材選びはイメージを強く反映させるので、蔑ろにはせずに丁寧に考えてみてください。

5. 詳細設計と構造のチェック

最終的なデザインが固まったら、詳細な設計に移ります。各部分の寸法や設計の細部まで図面に落とし込んでいきます。特に負荷がかかる構造部分は、実際の施工方法や材料強度を想定し設計を行ってみてください。実際の建築にはスチノリで固めたような構造体はありません。外部からの荷重が壊れそうだからと加減してくれるわけでもありません。屋内だからと雨水は決して避けてはくれません。より現実味を帯びることでその建築の持つ説得力は大きく跳ね上がります。

スケジュール管理のコツ:納期に間に合わせるための方法

納期内に質の高い設計を完成させるためには、計画的なスケジュール管理が不可欠です。ここでは、建築設計課題における効率的なスケジュール管理の方法を解説します。

1. 終わりの設定と逆算

プロジェクト全体の進行を可視化し、必要なタスクを逆算してスケジュールを立てます。たとえば、提出日の1週間前には設計図を完成させ、3日前にはプレゼン資料の準備ができている状態を目指します。具体的な終わりを設定し、それぞれのステップにかける時間を計画します。プレゼンボードは設計図を描いていく段階でも同時にパーツを作成できるため、時間軸を複数持ちながら考えてみてください。カレンダーなどがあると可視化できてスケジュール管理がしやすくなります。スケジュール管理の中にはエスキスの時間も含まれると思われます。全体を見通して、エスキスの時間を組み込んでみましょう。エスキス準備も必要だとは思いますが、最終的なゴールはぶれないようにしましょう。

2. 進捗状況の把握と定期的な見直し

スケジュールが順調に進んでいるかを定期的に確認し、遅れが出た場合は早めに対策を立てます。週に一度、進捗状況を振り返り、次週のスケジュールを再調整することで、予定通りに進めることができます。スケジュール管理において、確認と調整の時間はとても重要です。通学中の電車の中でもできますし、少し早めに学校に行けばできるはずです。一週間のスケジュールを細かく調整していきましょう。

3. 予備日を設定する

不測の事態に備え、スケジュールには必ず予備日を設けておきましょう。たとえば、プレゼンテーションの準備やフィードバックの反映に多くの時間が必要となることもあるため、最低でも1週間前には全体の流れを一度通しで確認できるようにしておきます。とくに冬場などは体調を崩しやすく上手く作業ができなくなるかもしれません。もちろん体調を崩さないように心がけることは重要ですが、空白の時間を設けることも大切です。もしもその空白の時間があまっているようなのであれば、次週の作業予定を前倒しで行えるはずです。

効率的に資料を整理し、設計プロセスを加速する方法

設計課題や卒業設計では、資料の整理も重要な作業の一つです。情報の整理ができていないと、必要な資料を見失い、時間がかかることがあります。

1. 資料のデジタル化とフォルダ管理

紙の資料もスキャンし、すべてデジタル化しておくと、検索や参照が容易になります。また、フォルダごとにテーマや段階ごとに分類しておくことで、効率的に資料を整理できます。また、レンダリング中やパソコンが固まってしまった時のために紙媒体でも管理しておきましょう。複数のファイルで管理することをおすすめします。参照事例や、社会的問題、進捗状況等で分けておくと見返しやすくなります。

2. キーワードタグを使った整理

収集した情報にキーワードタグをつけておくことで、特定の情報が必要になった際に素早く探し出せるようになります。コンセプトや空間構成、素材、技術などのカテゴリーごとに分け、タグを付けて管理することで、情報が埋もれるのを防ぎます。エスキスの際にまとめたフォルダを教授に見せるととても驚かれると思います。パソコンや、図面、模型だけでなく資料もぜひエスキスには持ち寄ってみてください。

3. プレゼンテーション用資料の事前準備

設計プロジェクトの進捗に応じて、プレゼンテーション用の資料も並行して準備しておくと、最終提出が近づいた際の負担を軽減できます。プレゼン資料のアウトラインや、重要な図面、説明を準備し、プレゼンテーションのための構成も少しずつ整えます。言葉を考えてみることや、図面リスト、説明準備は作業場でなくてもできてしまいます。スマホなどのメモをうまく利用し隙間の時間に考えをまとめておくと、プレゼンテーションの資料作成の際にとてもスムーズになります。特に、ストーリー仕立てにしておくと作成スピードは段違いにあがり、説得力も大きく増していきます。

成功するためのフィードバック活用法

設計の改善には、適切なフィードバックが不可欠です。フィードバックを受ける際には、以下のポイントに注意し、自身の設計をより高めるために役立てましょう。

1. フィードバックのタイミング

設計の途中段階でフィードバックをもらうことで、大幅な修正が必要になる前に修正箇所を見つけることができます。定期的にメンターや教授とレビューを行い、設計の進捗に応じて修正していくとよいでしょう。特に難しい構造部分に関しては教授に時間をとってもらい話す機会を得た方が正確です。また、事前資料が多いほど相手からのアイディアを多く引き出せる傾向にあります。エスキスを受ける前に、何が聞きたいのか、その参考にした例があるのかを確かめてみてください。

2. 具体的な改善点の確認

フィードバックを受ける際には、必ず具体的な改善点や指摘箇所を確認しましょう。抽象的な意見よりも、どの部分にどう改善すべきかを尋ね、具体的な方向性を掴むことで、次に進むべき課題が明確になります。自分のスケジュールにあわせて、その日のエスキスの内容や質問を事前に準備しておきましょう。ただ進捗状況を見せるだけでは、教授としても意見を出しづらい部分があるかもしれません。

3. 修正内容を記録する

フィードバックを受けた内容をノートにまとめ、修正内容を記録しておくと、後で振り返る際に役立ちます。特に事前資料がある場合には、返答の欄も作成しておくと効率的です。これをエスキスごとに作成していけば、それもまた立派な資料です。

忘れてはいけないのは、学校はゴールであってはいけません。これから、もっと多くの試練が待ち受けています。学校はあくまでも、勉強する場であって、たくさんの失敗が許される場です。たくさんのことを吸収するためにはたくさん挑戦して、時には成功して、時には失敗する必要がるのです。そして、ほとんどの人にとって、ここまで自由に設計ができる機会は2度とこないことを頭に入れておいてください。辛いかもしれませんが、どこかに楽しみを見つけられることを願っております。この投稿が皆さんの何かの助けになればと思います。